『今治タオル 奇跡の復活』を読んで、ブランディングをお勉強。

imabari_towel (1) 佐藤可士和  (著), 四国タオル工業組合 (著) 今治タオル 奇跡の復活 起死回生のブランド戦略 

ブランディングの答えは相手の中にある。


マーケッター必読の書デス。一からブランドを作り上げる為の非常に参考となる書であることは言うまでもありません。著者はユニクロ、セブンイレブン、キリンビール、楽天など数々の大企業のブランディングを生み出してきた天才クリエイティブ・ディレクター佐藤可士和氏。TV・雑誌などのメディアで既にお馴染みの存在ですよね。著書の内容を掻い摘んで一部ご説明しますと・・・・・

2006年6月、その佐藤可士和氏が向き合った相手は、バブル崩壊以降の売上減に歯止めが効かない四国タオル工業組合、所謂「今治タオル」デス。佐藤氏曰く、当時の日本のタオル産業は「今治タオル」でさえ、高級ブランドの下請け業者扱いでしかなく、独自ブランドを確立させようとしていた一部の志あるメーカーを除き、国内メーカー同志の下等な価格競争が蔓延し、もはや今治のタオル産業は衰退の一途を辿っている状態でした。

そんな重篤な患者を治療する医者の如く、佐藤可士和氏は「今治タオル」のブランド化によってこの困難を乗り切ろうと考えます。今治のタオルの歴史、今治の風土など様々な観点から考察された今治タオル唯一の武器は「吸湿性の高さ」。どうしてそんなに吸湿性の高いタオルが今治で生まれるのか。

その点に興味を示した佐藤可士和氏のとったブランディング方法は、フランスの「シャンパーニュ」を参考にしたブランディングイメージ。多分佐藤氏はラグジュアリーブランドをはじめ数多くのブランドの成り立ちを研究していたはずで、その中からシャンパーニュというフランスの産地ブランドが最も今治タオルのブランディングに適していると考えたのでしょう。H・テイジャーの言葉を借りれば「小知重ねて大功成す。」であります。

imabari_towel (2) 今治タオル 奇跡の復活 起死回生のブランド戦略 

まずは今治タオルの生産者たちの声を聴きまくります。佐藤可士和流に言うと「問診」というのだそうで、「吸湿性の高さ」以外にその問診の中から対象となる製品や商品の本質的な強みやキーワードを引き出していきます。そして、不必要な贅肉を削ぎ落として整理、そこからようやく普遍的なブランドコンセプトを構築、そのブランドコンセプトに見合ったステークスホルダーが皆一丸となれるシンボルを作り上げるという流れでした。

今治タオルのブランドコンセプトの場合、比類なき吸湿性の高さを武器にした「安心・安全・高品質」のたった3語。そして、その3語のコンセプトと今治の自然の特色を合わせて、大変シンプルな上の画像のシンボルが選ばれます。因みにこのシンボルが選択されるにあたって佐藤氏は3カ月もの期間を掛け、300ものシンボルを考案。50年後も使い続けられることを想定して、古臭くならないこと、飽きられないことなど、ありとあらゆる角度からシンボルを何度も振り返って、このシンボルが最終的に決定されたそう。

続いて、ブランドコンセプトに見合った品質基準・価格基準等のルールを確立し、それを徹底順守する組織作りデス。今治タオルのケースでは、各メーカーのベクトルをひとつに合わせるという佐藤氏が最も苦労した部分でした。何しろ当事者の四国タオル工業組合には、100年以上もの歴史があるタオルメーカーがごまんと存在しており、そこには様々な力関係があり、ブランドの価値観を統一させるインターナルマーケティングは至難の業だったようデス。

そして、ブランドコンセプトから決して逸脱しないことが安定のブランド作りには絶対必要条件なんですが、それに関しては四国タオル工業組合理事長の近藤聖司氏曰くこんな逸話があったそうデス。

今治タオルブランドのロゴが付いていれば売れる。
今治タオルブランドのロゴが付いているから買う。
それに近い状況はたしかに生まれている。だが、追い風を産地のメーカーの力だと過信してしまうと、ブランディングの基本線から逸脱する危機が生じる。実際に、今治タオルのプロモーションに使う予算が確保できるようになってきたことで、われわれは広告代理店の知恵を借りて宣伝用のイラスト案をつくってみたことがあった。

たとえば、しかめっ面をしていたベートーベンが、今治タオルを使った後でニッコリ笑っているイラスト。あるいは浮世絵の歌舞伎役者が今治タオルを首に巻いて見えを切っているイラスト。

「僕らはおもしろいと思ったけれど、それが “ブレる”ということだった。佐藤可士和さんにイラスト案を見せると、『あなたたちは、まだこんなことやろうとしてるんですか!』と、ブレを5分でビシッと戻された」

例えばソニーなんかは「革新的な製品を世に先立って作り続ける」が、おおよそのブランドコンセプトだと思うのですが、いつしかウォークマンやPSなどに胡坐をかいて、コンセプトから逸脱していたように見受けられます。まさにブランディングとは、言い換えると「ブレないこと」でもあるってことですね。肝に銘じておきたいところデス。

因みに冒頭画像の白い今治タオルは1ヶ月ほど前に手に入れたものでありますが、何度洗濯を重ねても柔らかさが損なわれず、確かに吸水性も相当に高いと思います。また、先ほどの四国タオル工業組合理事長の近藤聖司氏はコンテックスというメーカーの社長さんでもあるんですが、以前「極上のバスタオル探してます。」で紹介したバスタオルのうちのひとつがコンテックス製デス。但し、今治タオルの品質基準に見合わなかったのか、今治タオルのブランドタグは付いてませんでした(滝汗)なお、2013年の今治タオルのブランドタグ発行枚数は5442万枚にのぼったそうデス。

最後にこの佐藤可士和氏の何事も整理していく手法は、マーケティング分野だけでなく、業界問わず研究開発分野なんかでも十分使える万能の手法だと思います。佐藤可士和氏に政党のブランディングなんてやらしたら、めちゃくちゃシンプルで分かり易いマニフェストをつくって一大旋風起きそうな予感デス。そんな感じなので、ぜひマーケッターでない方も本書をご参考にされては如何でしょ?