若くして美しくバーの常連になる方法。by 山口 瞳

山口瞳 行きつけの店

数通えばいいってもんじゃない。


そんなわけで
往年のサントリー宣伝部にて
1958年に「裸の王様」で
芥川賞を受賞した
文豪・開高健氏と机を並べながら

自身もその5年後の1963年に
「江分利満氏の優雅な生活」で
直木賞を受賞した
天才エッセイスト山口 瞳。

サントリー宣伝部というか
佐治敬三元社長の
人材育成手腕恐るべし!?

で、その山口 瞳氏が
1993年に書いた著書
「行きつけの店」の一文に
標題の方法が書かれています。

「金を払っているのだから
何をしてもいい」
と思っている客は最低だ。

だけど、超一流の酒場へ
行っても怖気づくな。

なせならば
きみは「金を払っている客」
なのだから・・・・・。
正々堂々、平常心でいけ!

目立ちたい一心で、
隣の客に話しかけたりするな。

キチンと飲み、
キチンと勘定を払い、
キチンと帰るのを三度続ければ、

きみは、もう
超一流の酒場の常連だ。
立派な青年紳士だ。

店のほうで大事にしてくれる。

バーでなくとも通用する
美しく常連になる奥義かと。

僕は今、近所のサイゼリアで
この奥義を実践してまして
デカンタにみなみなみ注がれた
白ワインの量とか
フードの盛り付け量が
心なしか多いような気がします。

さて、この山口瞳氏
頑固一徹・筋金入りの
反戦主義者としても有名で
こんな言葉も遺してたりします。

人を傷つけたり
殺したりすることが厭で
その為に亡びてしまった
国家があったということで
充分ではないか。

もし、こういう(非武装の)国を
攻め滅ぼそうとする国が
仮に存在するならば

そういう世界は
生きるに価しないと考える。

以上、恐るべし信念デス。

そして、山口 瞳と言えば
1974年に自身が出演した
「雁風呂」をテーマにした
サントリー角瓶のCMが有名。

月の夜
雁は木の枝を口にくわえて
北国から渡って来る。

飛び疲れると波間に枝を浮かべ
その上に止まって羽を休めるという。

そうやって津軽の浜まで辿り着くと
いらなくなった枝を浜辺に落として
さらに南の空へと飛んでいく。

日本で冬を過ごした雁は
早春の頃再び津軽に戻ってきて
自分の枝を拾って北国へ去っていく。

あとには生きて帰れなかった
雁の数だけ枝が残る。
浜の人たちはその枝を
集めて風呂を焚き
不運な雁たちの
供養をしたのだという。 

哀れな話だなあ。
日本人って不思議だなあ。

PS.

北康利著書の
「佐治敬三と開高健
最強のふたり」によると

山口瞳氏がサントリー宣伝部に
採用された経緯がなかなか
面白いので以下ご紹介します。

当時サントリーの人気PR誌
「洋酒天国」の編集長を
務めていた開高健氏が

1957年に芥川賞を受賞したことで
編集長稼業と執筆活動との
二足の草鞋が俄かに忙しくなり
発行に穴を開けるようになります。

そこで、開高氏はそのPR誌に
独断で編集者募集の告知をし
そこへ応募してきたのが
編集経験のあった山口瞳氏
というわけなんデス。

しかも開高氏は勝手に
採用まで決めてしまうのですが
当時佐治敬三社長の業務が忙しく
了解が得られぬまま。

やっとこさ社長面接に
こぎ着けれたと思ったら
佐治社長は山口瞳氏をひと目見て
いきなりこんな言葉を発したとか。

「君の歯はどないなっとるんや?」

その言葉が影響したかどうかは
わかりませんが、山口氏は後に
総入れ歯にしたそうデス(苦笑)