アメリカン・スナイパー、「ラマディの悪魔」と呼ばれた男。

クリス・カイルが著した自伝『ネイビー・シールズ最強の狙撃手(英語版)』 アメリカン・スナイパー American_Sniper (1)

行くも地獄、帰るも地獄。


アメリカン・スナイパーと
ドローン・オブ・ウォー
話題となった以上2作品を
今更ながらDVDで鑑賞した。

共通点はどちらも中東で戦い、
心を蝕まれていく戦士たちの話だ。

まずは時系列的に
硫黄島からの手と父親たちの星条旗
この2作品のメガホンを握った
クリント・イーストウッド監督の
「アメリカン・スナイパー」から
レビューしたいと思う。

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2003年3月20日、
イラクが大量破壊兵器を
隠し持っているという疑いから
『イラクの自由作戦』の名の下、
国連決議を無視してまで
アメリカ、イギリス両国が
イラクに対して宣戦布告した。

制空権を完全に握っている
米英軍の兵力は圧倒的であったが、
地上でのゲリラ戦は苛烈を極め、
敵ゲリラ兵との泥沼のような戦闘が
幾度も繰り広げられていた。

そんな中、米海軍特殊部隊
ネイビー・シールズに
ブラッドリー・クーパー演じる
実在の人物クリス・カイルがいた。

クリス・カイルが著した自伝『ネイビー・シールズ最強の狙撃手(英語版)』 アメリカン・スナイパー American_Sniper (2)

主人公クリス・カイルは
イラク戦争に4度出兵、計8カ月
戦地での過酷な作戦に参加するが、
その間、敏腕スナイパーとして
160人ものゲリラ兵を狙撃し、
敵兵からは「ラマディの悪魔」と
恐れられ、そして、米軍内では
「伝説(レジェンド)」と
称賛されるほどの活躍をしていた。

がしかし、

現実的に戦地では
心の休まる暇などなく、
時と場合によっては女・子供を
容赦なく狙撃しなければならない。

イラクでの計8カ月の実戦は
心を蝕むには十分な時間だった。

結果、心的外傷後ストレス障害
(PTSD)に苦しみ、
家族に多大な苦労を掛けてしまう。

2009年に漸く除隊し、
自らがPTSDに苦しだ経験から
退役軍人らのPTSDの克服を
手助けする活動をしていたが、

2013年2月2日、
PTSDを患っていた
退役軍人にクリスは射殺され、
38歳の若さで妻子を残し、
不幸にもこの世を去ってしまう。

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アフガニスタンとイラクから
復員した米兵は年に8000人以上の
ペースで自殺していたそうで、
もちろん戦死者の数よりも多い。

本作については
米国での公開直後から
オバマ大統領をも
巻き込んだ大騒動となり、

リベラル派は
戦争を美化していると批判、

対して愛国論者は
それに猛反発するなど

世論が二分される社会現象が
巻き起こった作品だというが、

例え美化されていたとしても
あんな地獄のような戦場に
行きたくもないし、
誰一人行かせたくもない。

現在進行形である
イスラム国との戦いにおいて
オバマ大統領が
地上軍を投入しない理由も
本作を鑑賞して十分に頷けた。

戦場でもアメリカでも
もう誰一人も米軍兵士を
死なせたくない思いからだろう。
もちろんアメリカ世論も許さない。

今年始め、
中学の同窓会で
航空自衛隊パイロット養成の
教官をやっている同窓生と
35年ぶりに再会した。

2013年より
主に中露機を相手に
航空自衛隊のスクランブルは
800回を超えているという。

またスクランブル回数は
さほどでもないが、
北朝鮮機の飛来も
徐々に増えているそうだ。

万が一の軍事衝突が
起きない可能性など
決してゼロとは言えないだろう。

はぁ、愚かなるかな人間たちよ。

アメリカンスナイパー
★★★☆☆(3つ星)

そして、2010年、
クリスと入れ替わるようにして、
アメリカ空軍はドローンこと
無人爆撃機を中東に投入し始める。

米空軍のパイロットたちは
ラスベガスに程近い基地にある
エアコンの効いたコンテナーから
まるでゲームをやるかのように
遠隔操作で敵国兵士を空爆する。

もはや地上軍は必要なくなり、
ドローン・オブ・ウォーの時代が
6年も前から幕開けしていたのだ。