『私の愛するモノ、こだわるモノ』 Vol.1 ブリオーニのタキシード。

落合正勝『私の愛するモノ、こだわるモノ』 Vol.1 ブリオーニのタキシード。

男をお洒落にしてくれる、アイテムの数々。


私の愛するモノ、こだわるモノ
著者:落合正勝(1945-2006)

佃島の超高層マンション自宅のクローゼットにスーツ120着、ネクタイ1000本、靴100着以上が常時完璧な状態で保管されていたという伝説の服飾評論家であったことはもはや説明の必要はないかと。11年前61歳という若さで咽頭癌の病で亡くなられてからも、未だメンズファッション界、特にクラシコイタリアに影響力を及ぼすほどその存在は絶大デス。

そんな落合正勝氏が世界中のカジュアル化の波に抗うようにLEONやMEN’S EXなどのファッション誌で執筆した「落合正勝の箪笥の中身」、「エレガンスへのこだわり」といった貴重な連載が、この『私の愛するモノ、こだわるモノ』にまとめられています。

何しろ数年レベルではなく、数十年レベルで落合氏に愛用されてきた逸品たちが、知性と品格、愛情を込めた言葉で語り尽くされています。何故「ベルベストのスパン・カシミアスーツ」、「キトンのカシミア・ジャケット」、「セルッティの別珍ジャケット」なのか、、、、そこまで拘りきらないと究極には辿り着けないのかと嘆声の嵐デス。

もちろんクラシコイタリアとは縁遠いカジュアルスタイルしか出来ないボクですから、そこは致し方ないわけですが、後学のため、そして、ファッションの中に眠っている思想や歴史を少しでも理解するため、特に気になった落合氏推奨の逸品をいくつかここに書き残しておくこととします。

落合正勝『私の愛するモノ、こだわるモノ』 Vol.1 ブリオーニのタキシード。

Vol.1 は「ブリオーニのタキシード」。

ボクにとっての「タキシード」と言えば、英国の諜報部員007ことジェームス・ボンドの面々が思い浮かび上がります。

落合氏も同様だったのか氏曰く、中でも5代目ピアース・ブロスナンが演じた第18作「トゥモロー・ネバー・ダイ」のコスチュームにおいて、英国伝統のサヴィル・ロウではなく、イタリアブランドのブリオーニがボンドに選ばれたことが衝撃だったと。当時ロンドンの新聞は嘆き悲しみ、イタリアはサヴィル・ロウをついに追い抜いたと歓喜したそうな。

その決定の直後に落合氏は、ブリオーニのウンベルト・アンジェロニCEOとともにペンネにあるブリオーニの自社工場に訪れ、ブロスナンと同じデザインのタキシードを同じマスターテイラーにオーダーして作ってもらったそうデス。それが画像の一見地味に見えるタキシード。

体型がブロスナンと違いすぎるやんとは言う勿れ。このブロスナンモデルのタキシードのポイントは、ブリオーニの一般的なジャケットとディテールがほとんど同じ仕様で上がっていること。つまりブロスナンモデルと言えど、頑固にブリオーニの黄金比率が踏襲されてるとわけデス。

なので、ジャケットを見ただけで分かる人にはブリオーニだと分かる、この頑固さと拘りがブランドの真骨頂てなわけですネ。

そして、落合氏はこう言います。タキシードは決して改まった場所だけで着るモノではなく、一般的なスーツと同様に普段着として利用しても良いのだと。もっと日本人はタキシードに慣れるべきだと。

なお、改まった場所でタキシードを着用する場合、カマーバンドは必須ですが、そのカマーバンドについてる溝を上にして巻く理由は、オペラのチケットを溝に入れるためなんだとか。大変勉強になりました。

Vol.1 ブリオーニのタキシード
Vol.2 アクアスキュータムのレインコート
Vol.3 ネクタイの起源
Vol.4 タッセルローファーの怪
Vol.5 スキャバルの二つ折り財布
Vol.6 1929年製のロレックス

PS.

BEAMSの中村達也氏曰く、「日本ではネイビーを通り越し、黒いスーツを着ますが、これはインターナショナルではまったく通用しないんですよ。黒いスーツをビジネスで着るっていうのは日本人とドイツ人だけなんです。(FORZA STYLEより)」と語られています。

落合氏と中村氏、新旧を代表する方々の意見がここまで異なるとは驚きデス。この10年で世界のファッションの流れが大きく変わったのか、それともお二人の活躍している世界が違ってるだけなのか、なかなか興味深いところデス。

因みに20年ほど前のウォール街を特集したテレビ番組では黒のスーツを着用している米国人金融マンが多くて、驚いたのと同時にカッコ良すぎるやんと思った記憶有りデス。